「愛の村」

第二十九回 全道児童・生徒文芸作品 中学の部 作文創作 北海道教育委員会教育長賞受賞

村松 麻衣子 作

 これは、ずっと昔、私達の生まれる前のお話です。
 ある所に「小人の国」という国がありました。名前の通り、そこには、たくさんの小人達が住んでいました。小さな国でしたが、大人達は木の実を集めたり草花の種を 植えたりして仕事をし、子供達は野原や小川で動物達と遊び、みんな毎日幸せに暮ら していました。耳をすますとあちらこちらから明るい笑い声が聞こえてきます。
 でも、そんな国の外れに、ある村がありました。その村には誰も住んでいません。そればかりか木や草も一本も生えていなければ、動物だって一匹も見あたりません。ただかわいた土がどこまでも広がっていました。いったいなぜでしょう?それは。
 ある年、悪天候の日が何日も続いた年がありました。強い風と大雨で、木の葉や草は全部飛ばされました。花も。枯れ川は洪水を起こして、小人達の家のほとんどが流 されてしまいました。もちろん他の村も被害を受けたのですが、その村だけ特にひどかったのです。メチャクチャになってしまった村を見て、小人達はこまり果てていました。
 「これじゃあ、どうしようもないなぁ。」
 「うん。私達の力で元にもどすのは、とうていムリだ。」
 「どこか他の場所に新しい家を建てるしかないな。」
 そう言って、ほとんどの小人達は他の村へ移っていきました。後に少しだけ残った小人達は、何とかして村を元に戻そうとがんばりました。でも、水びたしの土では、植物は育ちません。家を建てようにも、材料となる木や草はどこにもありません。結局、最後はみんな村をすてて出ていってしまいました。そしていつの間にか、村には誰一人として近づかなくなりました。やがてその村は、「暗やみの村」と小人達に呼ばれるようになりました。  
 ある日、小さな男の子の小人が友達と遊んでいて、「暗やみの村」の前をとおりかかりました。男の子の名前はポポロ。いつも元気いっぱいで、興味を持った亊には夢中になる男の子です。ポポロは村の入り口を見て言いました。
 「あれ?こんな所に村があったんだ。」
 すると友達の一人が言いました。
 「知らなかったのか。この村、この村、暗やみの村、って言うんだぞ。」
 「暗やみの村?へぇー変わった名前だねぇ。」
 「この村は、前の大雨や風で木や草が全部なくなって、家も流されて、ボロボロになったんだ。それから誰もよりつかなくなったって父さんが話ししてた。それに父さんが言ってたぜ、この村には絶対入っちゃいけないって。暗くてあぶないし、出てこられなくなるかもしれないって。」
 ポポロは笑いました。
 「おおげさだなぁ。」
 それを見て、友達の中のミルンという女の子がつぶやきました。
 「でも・・・・・・この村、本当に気味が悪いわ。昼間なのにまっ暗だし。私何だか怖いわ。ねぇいつまでもこんな所にいかないで、早く行きましょうよ。」
 「そうしよう、そうしよう。」
 みんな口々にそう言って、先を急ぎました。でもポポロは、どうしてもこの村が気になりました。
 「暗やみの村だなんて、何だかかわいそうだなぁ。」
 「おい、ポポロ、何やってんだよ。早く来いよ!」
 その声に
 「うっうん。今、行くよ。」
 あわててうなづくと、何度も村の方をふり返りながら歩き始めました。
 次の日の朝、ポポロは「暗やみの村」の前に来ていました。そして、村の入り口をじーっと見つめていました。次の日も、その次の日も・・・・・・。ポポロは、思っていました。
 「この村は、何だか僕に助けてって言ってるみたい。でも、僕には何ができるんだろう?」
 考えているだけでは思いつきません。
 何日かしたある日、ポポロはとうとう、村に入る事を決心しました。本当はポポロだってちょっと怖いのです。でも
(この村を助けられるのは僕しかいないんだ!)
 そんな気がして、勇気を出して前にふみ出しました。石ころだらけの細い小道を通りぬけた所に、古びた門のような物があり、そのそばには木の立て札が立っていました。ボロボロになっていましたが、「プワール村」という字が書いてるのが何とかわかりました。
 「なぁんだ。ちゃんとした名前があるじゃないか。」
 門をくぐると、そこは一面の荒れ地でした。
 「本当に何もないんだな・・・・・・。」
 ポポロは辺りを見わたしてつぶやきました。
 「まずはとにかく何かを植えなくっちゃ。・・・・・・そうだ!いい物がある。」
 そう言ってポケットから黄色いふくろを取り出しました。中には小さな種が一つぶ入っていました。それは、ポポロが小さい頃おばあちゃんにもらった物でした。そのとき
 おばあちゃんは、ポポロに言いました。
 「これは、愛の種だよ。お前が大きくなるまで、大切にもっているんだよ。きっと役に立つから。」
 言われた通りに、ポポロはその種をいつも大切にしてもっていました。
 「だけど、愛の種だなんて、聞いた事のない名前だな。いったい何が育つんだろう。」
 そう思いながらも、ポポロは、荒れ地の真ん中に穴を掘り種を置くと、上からていね
 いに土にかぶせました。それから近くの川から水をくんできて、たっぷりとかけてやりました。
 「早く芽がでますように・・・・・・。」
  そして三日後、ポポロは様子を見に、村へ行ってみました。すると、種を植えた所から緑の芽が顔を出していました。
 「やったぁ、芽が出たんだ!よかった。」
 ポポロは大よろこびでした。それから毎日、村に通い水をかけてやりました。
 「大きく育つんだぞ。」
 ポポロの気持ちに応えるように、芽はどんどん伸びていきました。そして、信じられない事に、たった一ヶ月で、大きな木になったのです。それは、緑の葉をたくさんつけた、とてもりっぱな木でした。ポポロは、おどろきとよろこびでいっぱいでした。
 (よし。もっともっと、いろいろな物を植えよう!そしてこの村を、自然でいっぱいの明るい村にしてみせるぞ)
 ポポロは、草花の種をたくさんまきました。それから水をやったり、雑草をぬいたり、石ころをどけたりと、毎日せっせと世話をしました。
 一人だけでは大変な仕事でしたが、ポポロは一日もつらいと思ったことはありませんでした。自分の植えた草や花が少しずつ伸びていくのがとてもうれしくて、はりきって仕事をしていました。ポポロの努力で、村は少しずつ元の姿に戻っていきました。
 そう、たくさんの緑であふれる美しい村に・・・・・・。
 ある時ポポロは、木の枝に一羽の小鳥が留まっているのを見つけました。次の日には、シマリスの親子が木の実を食べていました。自然と一緒に、動物達も帰ってきたのです。
 「もうここは、暗やみの村なんかじゃない。」
 ポポロは、新しい立て札を作りました。そして、「愛の村」そう書いて、村の入り口にしっかりと立てました。それから他のみんなを呼び集めました。
 「みんな、早くおいでよ。この村は生まれ変わったんだ。暗やみの村から愛の村に!」
 「愛の村だって?」
 「そう。愛の村。とにかく僕について来てよ。」
 ポポロにつれられて村に入った小人達は、みんな目を丸くしておどろきました。
 「信じられない・・・・・・。少し前まで、ただの荒れ地だったのに。」
 「すごいポポロ!これ、みんな一人で植えたの?」
 「見て、小鳥が飛んでいる!」
 みんな口々にさけびました。ポポロは、とても満足でした。一人の小人がポポロに言いました。
 「ありがとう、ポポロ。これからは、私達もお前を見習って、この村の自然を大切に守っていくよ。」
 「私も、草や花の世話、手伝うわ。」
 「ぼくも!」
 「ぼくだって手伝うよ!ぼく、花に水をかけてあげるんだ。」
 みんなの言葉に、ポポロはにっこりしました。
 「ありがとう。みんな。きっとこの村もよろこんでいるよ。」

 ポポロは、大切な事を、私達に教えてくれました。
 何にもない所でも、一つの心があれば、美しい自然が生まれる。
 何にもない所でも、努力すれば、よろこびが生まれる。
 そして、少しのやさしさがあれば、たくさんの愛が生まれる、という事を。
 みなさんも、いつかきっと植えてみて下さい。私達一人一人がもっている、愛の種を・・・・・・・・。